Organisation for Economic Co-operation and Development(OECD, 経済協力開発機構)は加盟国と非加盟国15歳児の読解力、数学的リテラシー、科学的リテラシーなどの分野で PISA(Programme for International Student Assessment)と呼ばれる国際的な学習到達度調査を2000年に、32か国を対象として開始しました。
フィンランドの教育が日本で注目を浴び始めたのは、2000年(平成12年)にOECD(経済協力開発機構)のPISA(生徒の学習到達度調査)の結果が良かったため、その時から注目を集めるようになりました。
PISAでフィンランドが高水準を示したのは、1994年にわずか29歳で教育相となったオッリペッカ・ヘイノネン氏が行った改革が鍵となっています。
この改革でコア・カリキュラム(日本の学習指導要領)の項目を3分の1に削減、教科書の検定を廃止、教員の資格として修士号を要求したなどのことにより、学校や教員という教育現場の裁量権が大きくなり、教育がより自由となりました。
ここではそのようなフィンランドの教育についてわかりやすく解説します。
フィンランドの教育制度
最初に、フィンランドの教育機関と制度の仕組みを解説します。
プレスクール(就学前教育)
フィンランドでは、日本でいう小学校と中学校にあたる総合学校へ入る前に就学前教育が行われます。
この就学前教育の特徴として、小学校との連携と傾聴があげられます。
小学校の先生が入学する前の6歳児を対象に、就学前教育を行うことがあります。
そこでは、先生が問いかける「問い」を「聞く・聴く」ことを重視しており、たとえば、先生が「これからいう数の分だけ、ジャンプしてみましょう」「先生の言葉を聞いて(聴いて)動いてみましょう」というような先生の「問い」を聞いて、それを体で表現するというようなことが行われています。
総合学校
フィンランドでは、子供が7歳になる年の8月に総合学校に入学します。
これは日本でいう小学校と中学校にあたります。
そして7歳になる年の8月に総合学校に入学します。
この総合学校は基本的には9年制で日本と同様、初等課程6年間と中等課程3年間に分かれています。
大半の生徒は9年で卒業しますが、一部の生徒は学校側の指導や上級学校へ進学するための準備として自発的にさらに1年通うことも許されています。
高等学校と職業専門学校
総合学校を卒業すると約半分が大学進学を目指して3年制の高等学校へ進みます。
なお、高等学校は便宜上学年が明示されていますが、実質は無学年制を採用しています。
一方、約3割が職業専門学校に進みます。
職業専門学校は職業教育を提供する場であり、総合学校卒業生だけでなく高等学校卒業生も受け入れています。
大学・高等職業専門学校
高等学校と職業専門学校を卒業すると、大学、または高等職業専門学校に進みます。
大学は3年の学士課程と2年の修士課程で構成されています。
また、高等職業専門学校でも修士号を取得することができます。
ただ、高等職業専門学校の授業の内容は大学とは異なり、大学ではどちらかと言えば原理的・理論的研究に重点が置かれますが、高等職業専門学校では即戦力を備えた人材の育成に重点が置かれています。
なお、フィンランドでの大学進学率は3割程度で、大学に入学するためには非常に熾烈な競争試験を突破しなければなりません。
フィンランドの教育の変遷
フィンランドは、 教育課程基準 の改訂が1970年、1985年、1994年、2004年、2014年と、約10年ごとに行われました。
1970年の教育課程基準
1970年の教育課程基準は、「上から下方向モデル」と呼ばれています。
ここで言う「上から下」には、二つの意味があります。
一つ目は、極めて中央集権的な教育政策を体現するものであったということです。
当時のすべての学校の設置者は国家であり、教育に関するあらゆる決定権を国家が握っていました。
そして、指導内容も指導方法も教育課程に詳細に定められていて、定められた通りに指導されているかどうかを監視する制度もありました。
二つ目の意味として指導法です。
教師主導型の指導法が一般的であり、授業中に生徒が質問したり自分の意見を述べたりする機会が与えられるかは教師に決定権がありました。
1985年の教育課程基準
1985年の教育課程基準は、「下から上方向モデル」と呼ばれています。
上記のような中央集権的な教育政策に疑問が投げかけられ、児童生徒の自発性を重視するようになりました。
1985年に教育期課程基準を告示するにあたって、「学校は社会で役に立つことを教えるところである」という考え方をもとに、グループによる探究学習が推奨されたほか、習った内容を社会に当てはめて考えさせる指導法や、児童生徒の日常的な問いを出発点とするような指導法などが示されました。
しかし、指導内容と指導法は教育課程基準に規定され、その実施状況が観察される制度自体は変わりませんでした。
したがってこの時点では、自治体は小学校の設置を任されただけであり、その他の決定権はすべて国家が握っていたため、国家に監視された教育という部分では変わりませんでした。
1994年の教育課程基準
1994年の教育課程基準は、「協働モデル」と呼ばれます。
地方分権と現場裁量の拡大によって「国家–自治体–学校」の協働が成立したこと、学校において協働学習が重視されるようになりました。
予算に関わる細目は各自治体の決定に任され、内容に関わる細目は各学校に任されるようになりました。
こうしてフィンランドの教育課程基準は、国家版―自治体版―学校版の三段階制となりました。
また、教育課程基準の告示に先立ち、教科書検定・採択制度は廃止され、監察制度も廃止されたため、教師は完全に自分の流儀で教えることが可能になりました。
そして、単に教科の知識を増やすのではなく、「知識の構造や有効性を理解すること」「現実の問題解決に知識を適用できること」「自分の知識の構造を組織化すること」が最も重要であるとみなされるようになったのです。
協働学習においては、教師も協働学習者とされ、協働学習者であると同時に、指導の専門家であり、教科の専門家として機能することも期待されていすが、児童生徒にとって権威的な存在にならないようにすることが肝要であると記されています。
また、1994年版の教育課程基準にあわせて制作あるいは改訂された各教科の教科書には、答えが一つに定まらないような課題が、掲載されるようになりました。
この頃から、「グループ学習」と言う言葉は使われなくなり、「協働学習」という言葉が使われるようになりました。
2004年の教育課程基準
2004年の教育課程基準はの特徴として以下の2つがあげられます。
第一に、1994年版で大幅に削減された指導事項を、大幅に復帰させたことです。1994年版では教えなくてもよいとされていた母語文法は、2004年版では教えなければならなくなりましたた。
それは全国学力状況調査でのフィンランドの児童生徒の学力(特に母語の学力)が低下していることが明らかとなったためです。
第二に、教育の国家目標として「人として・社会の一員としての成長」「生きるために必要な知識と技能」「教育の機会均等の推進と生涯学習の基盤づくり」の三つが、明確に示されました。
また、教科を超えた資質・能力が示されました。
2004年で示された資質・能力とは、人間としての成長、文化的アイデンティティと国際性、メディア・リテラシー、市民としての社会参画と起業家精神、環境・繁栄・持続可能な未来への責任、安全、人間と化学技術の七つになります。
2014年の教育課程基準
PISAやTIMSSなどの国際学力調査の成績が実施のたびに低下しており、国内の学習状況調査でも2004年から10年連続で数学と母国のスコアが落ち続けていました。そのため教育庁は、以下4点を支柱とした改革を行いました。
- 指導方法と学習法を変える。
- 教科学力と汎用的な資質・能力を明確に関連付ける。
- 「学校文化」を変える。
- 電子黒板・タブレット・PCなど、教育を全面的にデジタル化する。
このように示すことによって、全学年の全教科について、教科学力とともに、関連する資質・能力を統合的の評価することが可能になりました。
フィンランドの教育の特徴
ここからはフィンランドの教育の特徴について解説します。
フィランドの教育はシンプル
フィンランドの教育の良さは、何よりもそのシンプルさにあるといわれています。
- 入学式や終業式、運動会などの学校行事がない。
- 授業時間が少ない。
- 学力テストも受験も塾も偏差値もない。
- 統一テストは、高校卒業時だけ。
- 服装や髪型に関する校則も制服もない。
- 部活も教員の長時間労働もない。
このように教育・学校がシンプルであると、親にとってもストレスが少ないといえます。
フィンランドでは教師という職業が人気
フィンランドの教育では教師という職業がとても人気です。
フィンランドの高校生に希望の職業を質問すると4人に1人は教師と答えるそうです。
フィンランドでの教師のイメージは国民にとっての蝋燭であるといわれています。
これは、暗い部屋の中で唯一の希望の光である一本の蝋燭のように、国民のこれからの道を示す存在であるという意味です。
職業として立派である上に、夏休みとして6月から8月半ばまでの2か月半の有給があり、このため教育学部の競争率は非常に高いそうです。
また、教師になるには「修士号」を取得することが義務付けられているため、フィンランドの教師は優秀であるといわれています。
教師が自立している
フィンランドではどの教科書を使うかなどは教師が選択できます。
あくまでも教育課程基準に示された目標に達成させることが目標であり、達成させる方法は自由なのです。
この自立した教師たちが、自由に発想して授業づくりをすることが、フィンランドの良質な教育を支えているといえます。
そのため、教師はただ教科書の内容を教えるのではなく、独自の方法で独創的な発想で授業を行えるようなる必要があります。
学習評価 Wilma(ヴィルマ) の導入
フィンランドでは学習評価にWilma(ヴィルマ)というノルウェーの民間の会社が作成したシステムを導入しています。
Wilmaでは、大まかに、テスト成績の記録、日々の行動評価の記録、資質・能力の評価、評価面談の記録などを学習評価として記録しています。
保護者は、学習評価はもちろん、保護者との連絡を含め、子どもの学校生活全体について、インターネットを使ってアクセスできるようになっています。
いつ子どもが学校に登校しているか、出席しなかった授業は何か、学習成績はもとより、教師が子どもをどのように評価しているかについてもわかるようになっています。
また、Wilmaの導入により、事務作業の負担が大幅に減ったなどといった教師からも高く評価されています。
「平等な教育」の実現
フィンランドでは、都市部でも農村部でも「同じ教育」を受けることができるような工夫がされており、制度だけではなく、学習成果においても「平等な教育」が実現されるべきものであると考えています。
そのため、毎年複数回、学力状況調査を実施することにより、教育の質の確保されているかどうか、学力格差が生じていないかどうか調査しています。
その結果を踏まえて、学校間、学級間、児童生徒間の学力格差を是正するために、補修制度や学習支援員制度などの充実が図られています。
つまり、PISAのフィンランドの成績が良い理由の一つとして、成績が上位層と下位層の得点差が小さく、それによって全体平均点が押し上げられたためだといわれています。
フィンランドが国をあげて学力格差の是正を図ってきた成果です。
また、フィンランドはクラスサイズが小さいことでも有名で、一クラスあたりの児童生徒数は、約20名程度です。
フィンランドの教育費は無償
「平等な教育」の実現のために、取られている具体的な施策の1つとして、9年間の義務教育期間は、授業料はもちろん、給食、教科書・教材、文房具、交通費などが無償ということがあげられます。
さらに、子供が生まれると、政府から至れり尽くせりの育児セットが届きます。
このようにフィンランドでは子どもを育てるのにお金があまりかかりません。
地方分権型教育政策を採用
フィンランドでは、地方分権型教育政策になっており、これは、基本的に国家が指針を示し、各学校がその指針を実行に移すというものです。
政府より枠組みや到達目標だけ指定されて、それ以外の指導内容や指導法はそれぞれの教育現場に任されています。
つまり、学校に多大な裁量権が付与されており、その結果、各地域で提供される科目やその授業時数は学習指導要領で指定された枠内で、地域の教育委員会が決定しています。
また、学校の在り方を校長の権限決められるます。
そのため、学校は独自の「個性」を持つことになりました。
学校ごとに、「数学重視」・「芸術重視」・「外国語重視」など、重点教科を設定したり、ある地方都市では、モンテッソーリ教育を全面的に導入し、義務教育9年間にわたって学年に学級も完全に廃止してしまうというところもあります。
「平等な教育」という目標をかかげながら、地方分権型教育政策をとって、各学校の個性を大事にするという、一見相反することを行っています。
これがうまくいけば、とても素晴らしいのですが、やはり問題もあるようで、学校に独自の「個性」を持たせることが格差を生み出す原因になっています。
具体的には、学校選択が可能な地域では、魅力的な「個性」の学校に入学希望者が集中し、学校予算は児童生徒数に応じて比例配分されるため、入学希望者の集まらない学校は、財政的に逼迫してしまうなどの問題が指摘されています。
フィンランドの外国語教育
フィンランドでは母国語含め2ヵ国語以上学ぶことが義務付けられています。
2つの言語のうちどちらかは、フィンランドの公用語であるフィンランド語とスウェーデン語のうち自身の第一言語でないものを選択しなければならないという決まりがありますが、英語が必修という決まりはありません。
ただ、1つ目の外国語授業で英語を選択し、2つ目にフィンランド語かスウェーデン語を選択するというのが一般的であるといいます。
さらに、外国語言語能力の学習到達目標は、CEFR(Common European Framework of Reference for Languages)に沿って示されています。
CEFRとはヨーロッパ共通の外国語能力レベルを規定するもので6段階に分類されていますが、これは主に成人の外国語能力を区分する目的で設定されています。
そのため、学生のレベルを区別できるよう、これをさらに細かく分類した10段階の評価が学習指導要領として採用されています。
また、English Showerという、まだ教科としての言語教育がされる以前の総合学校1.2年次に行われる英語教育や他の教科の授業を英語を用いて行うCLILも行われています。
なお、ここまではおもに以下の3冊をもとに内容をまとめました。
フィンランドの教員と教員養成
ここからはフィンランドの教員と教員養成について解説します。
フィンランドの教員の質が高い理由
フィンランドでは高い教員の質が高い理由として以下のことが挙げられています。
- 教育学部への志願者は高い競争率をくぐり抜けた優秀な人材である。
- 小学校教員として外国語を教える場合でも、修士課程の資格を必要とし、英語の専門授業を履修しなくてはいけない
- 他学部から教員になるためには、日本のような解放性のもとに資格を取れるわけではなく、教育学部で人数が決められ、事前に試験が課される
- 主専攻と副専攻の組み合わせにより幅広い知識を備え、かつ授業は学部間で連携がとられている。
- 臨床的な教育実習が行われる。
- 現職教員研修を受ける環境が整っている。
そもそもフィンランド国内には14個の大学しかなく、中でも教員養成課程を備えている大学は8大学のみで、。例年倍率は高く、中でも大学の教員養成プログラムを受けることができるのは志願者の約10%ほどであるといいます。
このように様々な研修制度や倍率を潜り抜けてきたからこそ優秀な人材がそろうのでしょう。
教員の資格は修士号
フィンランドの大学の進学率は、3割程度であり、大学入学に熾烈な戦いがあります。
大学入学までの評価方法としても、軍隊経験やボランティア経験が重視され、軍隊経験が条件となる理由は、女性上位の傾向を改善するためともいわれています。
なお、教員の社会的な信頼や尊敬は厚く、教職は人気の職種です。
そのため、教育学部の教員養成学科はクラス担当教員資格を取ることができるため、競争率が高いです。
フィンランドの教員は、幼児教育担当数員という教員以外は修士号取得が条件となっており、基本的に大学を卒業し修士号を取得しています。
教員を目指しているかどうかに限らず、フィンランドでは修士号が基本学位と見なされており、教員になるためには最低でも5年間大学に通うことが必要です。
ただ、学費や生活支援金など政府から手厚い経済的な支援が受けられ、さらに交通機関や施設で学割などが使えるため、5年で修士を卒業する生徒は珍しく、大多数は7年かかることが多いといわれています。
それだけ充実度が高いと言えます。
教員には幼児教育担当教員、クラス担当教員、特別支援教育担当教員、そして教科担当教員という4種類があり、そのうち教科担当教員のみは、それぞれが専門とする教科に関連する分野の教育学部以外の学部に入り、同じ大学のもつ教育学部と連携された教職科目をとる必要があります。
日本と大きく異なる点は、小学校教員の教科を専科として担当する場合でも、小学校教員の資格は必要ないということです。
さらに、教員免許状というものが存在しません。
終了課程がそのまま教員資格として反映されます。
フィンランドの教員は労働時間が短い
2018年度のOECD参加国の内、日本の教員は一週間の勤務時間の平均が53.9時間であったことに対し、フィンランドの教員は33.3時間でした。
フィンランドの教員の勤務時間のは以下のような理由からです。
- 教員がホームルーム等は行わない。
- 生徒指導ら課外活動専門での教員が存在する。
日本では全て教科担当の教員が担当する業務をフィンランドの教員は行わないため、勤務時間が少なく抑えられているのです。
教育実習
フィンランドの教育実習は、主に4つで構成されている。
- リサーチを基盤とした教師の成長
- 教授・学習の基礎としての授業設計
- 教職の専門家
- 探求・検証する教師
以上のように、フィンランドでの教育実習は、内容が多様化しています。
これらの内容は以下の本から引用しました。
おわりに
ここでは、フィンランドの教育制度の特徴について解説しました。
特に、「平等」と「個性」という一見相反するものをどのようにバランスを取っていくかが大きな課題だと思われます。
完璧な教育なんていうのはありませんから、フィンランドの教育がすべて素晴らしいというわけではありませんが、ただ、日本で近年大きな問題となっている教育格差など、日本はフィンランドからいろいろ学ぶことも多いと思われます。
フィンランドおすすめの本12冊【教育・仕事・生活・サウナ・旅行】にフィンラインドに関する本をまとめました。
なお、レポート・卒論などでフィンランドの教育について書こうと思っている方は以下も参考にしてください。
本ブログは以下の5冊の本を参考にわかりやすく要約し、まとめたものです。
本ブログは引用文献にはならないですので、卒論などでフィンランドの教育について書く方は必ず以下の5冊を読んできちんと引用してください。
引用の仕方は以下を参考にしてください。
就活と卒論で悩んでいる方は以下を参考に
夏休みや春休みのリゾート地でのバイトを探している方は以下を参考に