韓国は英語教育が盛んだということはよく聞くことだと思います。
実際に、日本よりも随分早く小学校に英語教育を取り入れてきました。
韓国の英語教育は、失敗していること・成功していることそれぞれですが、失敗も含め韓国の先例から学べることは多くあります。
私が10年間韓国の英語教育を研究する中で、韓国から最も日本が学ぶべきことだと思っているのが、教育格差対策です。
日本でも近年不景気が続き、こどもの教育に十分に投資できない家庭が増え、教育格差ということが問題になりつつあります。
韓国では日本以上に都市と地方などの地域や親の収入などによる教育格差が大きな社会問題になっています。
しかも英語が最も教育格差が大きいといわれており、その教育格差を縮小するために政府・自治体が様々な対策を行っています。
ここでは政府や自治体主導で行ってきた英語教育に関する教育格差対策についていくつかご紹介したいと思います。
韓国では英語の教育格差が社会問題
韓国は日本以上の学歴社会であり、そのため親の教育熱は高く、親は小さいころから子どもの教育に投資し、塾通いや家庭教師などの私教育費の増大が大きな社会問題になっています。
韓国では毎年小学6年生を対象に「国家水準学業成就評価」という全国規模の学力テストを実施していますが、都市と地方における点数差は英語が最も著しいといわれています。
特に、英語に関する教育格差が大きな問題となっており、学校で英語を学ぶ小学3年生になるまでに、児童の間に英語力に格差ができてしまっていることも多く、裕福な家庭は子どもを積極的に海外に送って語学研修を受けさせたりしています。
子どもに海外で英語を学ばすために、妻子を海外に住まわせ、父親は韓国に残って生計を支えるという「キロギ・アッパ(雁のお父さん)」と呼ばれる父親が家族別居問題の象徴的存在として注目を集め、社会問題となりました。
特に、「キロギ・アッパ」の孤独死や自殺など、つらい生活実態が明らかになり、早期留学に対する批判が高まっていきました。
この状況への対策として、各自治体は英語体験施設(英語村など)を設置してたり、国営の英語番組専門放送チャンネルEBSeを開設したり、英語図書館を開館しています。
韓国の英語教育に関する教育格差に関してはこちらの書籍を参考にしてください。
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なお、韓国の教育格差に関してはちょっと古い本ですが、こちらをおすすめします。
韓国の英語教育① 韓国の英語村
韓国の英語村は、留学に行くことのできない子どもが「擬似外国体験」をできる韓国国内の施設で、施設内ではイミグレーションや税関を通過して「入国」し、買い物や食事もすべて英語で、外国のシステムに沿って行う仕組みとなっています。
以前、韓国の5か所の英語村の調査に行きましたが、韓国の児童が非常に安く施設を使えるため、教育格差対策として素晴らしい試みだなととても感心しました。
特に、所得が低い児童にはいろいろな援助があり、無料で参加できる施設もありました。
日本でも有名な「京畿英語村パジュキャンプ」は何度か訪問したことがありますので、その時のことを少しご紹介します。
「京畿英語村パジュキャンプ」はイギリスの南部地方ライ村をモデルに、楽しいアクティビティを通して、生活の中で自然に英語と英語圏の文化を学ぶことができる施設です。
敷地内には600席のコンサートホールやレストランなどの商業施設を運営しており、英語村パジュキャンプには多くの外国人スタッフが生活しています。
また、実物大の警察署・郵便局・銀行・入国審査場等があり、そこでロールプレーの授業を行うことができます。
韓国人を対象にしたプログラムは日帰りのOne Day Programと宿泊を伴うCoursesに分かれており、One Day Programは幼児や小学生や家族連れを対象にしており、料理や工作などをしながら楽しく学ぶプログラムが多く提供されています。
Coursesには小学生・中学生・高校生・大学生・一般・英語教師のためのプログラムが用意されています。
「小中学生コース」では「英語村パジュキャンプ」に到着すると、子どもたちは宿泊棟で荷物を下ろした後,英語村で生活するためのオリエンテーションを行い、英語村では常に所持しなければならないパスポートをもらうことになっています。
レッスン内容としては演劇・クッキング・ダンス・科学・病院などがありました。
以下はある日のスケジュールである
- 09:00-12:00 ホームルーム・ドラマ・工作・公共施設体験等
- 12:00-13:00 昼食
- 13:00-18:00 ドラマ・各種実験・料理・スポーツ等
- 18:00-19:00 夕食
- 19:00-21:00 ダンスパーティ・ボードゲーム・映画鑑賞・ショッピング等
当時の「京畿英語村パジュキャンプ」の国際交流の担当者に「京畿英語村パジュキャンプ」について1時間ほどのインタビューを行いました。
一番印象的だったのは、経済的な利益以上に、アジアの様々な国の学生を「京畿英語村パジュキャンプ」に集め、英語で交流できる施設として発展させていきたいと語っていたことでした。
「京畿英語村パジュキャンプ」を訪問するまでは,日本においては小学生のツアーが主にテレビや雑誌などで取り上げられることが多かったので、「京畿英語村パジュキャンプ」は児童用の施設であろうと思っていましたが、実際に訪問してみるとアジアの大学生を対象にしたプログラムに最も力を入れている印象を受けました。
実際に様々な国の大学生を受け入れており、私が訪問した際にも、タイと韓国の大学生のためのプログラムが行われており、KBSの取材班も来て、その様子をニュースで放映していました。
ところが、英語村自体はとてもいい施設なのですが、維持するが大変ということで韓国のほとんどの英語村が赤字経営で、結局ほとんどが民営化になったそうです。
つまり、英語村は当初は各自治体が始めたが、今現在ほとんどが経営が苦しくなり、民営化されているということです。
こちらの「京畿英語村パジュキャンプ」も結局民営化されました。
一方、釜山にある Busan Global Village は宿泊施設はなく、日帰り施設のみ備えた英語村です。
Busan Global Village は宿泊施設のように経費がかからないので、現在でも上手いっているようです。
日本にも東京のTokyo Global Gatewayなどができましたが、かなり高額で、誰でも利用できるようなものではなく、韓国の英語村とはかなり異なります。
ただ、韓国の英語村のほとんどが赤字経営である現状を考えると、高額な利用料は仕方がないのかもしれません。
韓国の英語教育② 英語番組専門放送チャンネルEBSe
韓国政府は教育格差を緩和するため、Information and Communication Technology (ICT) ツールを利用してきました。
その中でも、特に韓国政府が最も力を注いで開発してきたのが、2007年4月に開局した英語番組専門放送チャンネルであるEBSeです。
ここでは会員登録をするとかなりの数の過去の番組が無料で視聴できます。
EBSeのホームページには以下のような番組が掲載されています。
- 幼児向けの番組が30以上 (Art Classic Stories, Baby Peekabooなど),
- 小学生向け番組が70以上(La La La Happy School, I love Readingなど)
- 中学生向けの番組が60以上( Rainbow English, Enjoy Storiesなど)
- 高校生向けの番組が10以上(Debate Survival, Korean Cultureなど)
- 一般および父兄のための番組が40以上(World News Review, English 119など)
- 教師用の番組が10以上1 (Teachers’ Guide3-Native Teacher, Teachers’ Guide2 – Middle Schoolなど)
テストやゲームなども行うことができ、学校でも自宅でも学習できます。
その中にSchool English Level (SEL)と呼ばれる学校の授業で使用することを前提として制作された番組があります。
教員が授業で使用できるように各番組の教材がホームページ上からPDF教材としてダウンロードできるようになっており、また、全番組のスクリプトや音声がダウンロードできるようになっています。
上記は韓国での英語の教育格差対策を参考にしました。
なお、韓国での英語の教育格差対策は Kindle Unlimited で無料で読めます。
Kindle Unlimitedでは30日間の無料体験を行っていますので、ぜひ無料でお読みください。
韓国の英語教育③ 子ども英語図書館
もう一つの対策のとして「子ども英語図書館」があげられます。
そこでは英語の図書を提供するだけでなく、キャンプや英語の講座などの体験活動を無料または廉価で提供しています。
「国家図書館統計システム」上の「公共図書館」のデータベース上において、韓国語で英語と入力し、図書館名に「英語」が含まれている公共図書館を検索した結果11館抽出されました。
上記の動画は英語図書館について解説した動画です。
麻浦子ども英語図書館
最初に、「麻浦子ども英語図書館」をご紹介いたします。
「麻浦子ども英語図書館」の英語のプログラムは週1回で1か月30,000ウォン(約3,000円)です。
麻浦子ども英語図書館の英語プログラム
以下が「麻浦子ども英語図書館」の英語のプログラムです。
- Independent Reader 小学2年生~5年生対象(2クラス)
自分に親しみのあるキャラクターが登場する本を読んで、本の内容を理解し、本を通して討論の準備を行う。 - Non-fiction 2: Non-fiction Reading 小学3年生~6年生対象(1クラス)
ノンフィクションを通して文の構成と文章の正確性を高め、専門的な語彙と知識を習得し、さらに、歴史、自然科学の分野の専門知識を得ることができる。 - Kid’s Book Club1創意的英語読書入門 小学3年生~6年生対象(1クラス)
高学年のための絵本24巻を中心に物語を理解する、考えを共有する、自分の考えを整理して書くという活動を併行して行う。 - Storytelling 3:高学年Storyteller 課程 小学3年生~5年生対象(1クラス)
毎月決められた本を声に出して読むだけでなく、体も動かしながら自分の話として話せるようになる講座。正確な発音や自然な音韻が身につくように学習し、話の内容を自分の言葉で表現できるように登場人物やメッセージについて深く討論を行い、グループで読み聞かせ活動やオーディオ資料を作る活動を行う。 - 子ども研究員および研究員セミナー課程 小学6年生対象(2クラス)
深化プログラムとして物語の分析や作家の研究など読書後の活動とプレゼンテーションを行う。
図書館らしく読解力を高めるプログラムが多いですね。
陽川区英語専門図書館
「陽川区英語専門図書館」は既存の子ども図書館と英語体験センターを改修し,2016年4月19日に韓国・ソウル特別市陽川区のヘヌリタウン7階に英語専門図書館を開館しました。
書籍以外にも子ども英語資料室・語学室(2部屋)・プログラム室(2部屋)、読み聞かせルームがあり、これらを利用して様々な英語のプログラムを提供しています。
「陽川区英語専門図書館」の英語プログラムはすべて無料です。
陽川区英語専門図書館の英語プログラム
- ABC Fun Phonics 小学1年生~3年生対象
スマート言語ラボのタッチテーブルを利用した授業でチャンツとゲームで基礎的なフォニックスを身につける。 - Science Why 小学1年生~3年生対象
面白い物語を読んで関連する科学的実験やプロジェクトなどの活動を通じて,英語を身につける。 - Movie Kids2 小学4年生~6年生対象
映画の中の様々な表現を聞いて理解し短い劇でそれらを活用して会話の練習を行う。 - The Times Quiz 中高生
Time for Kidsの記事を一緒に読んでトピックについて自分の考えを書いて発表する。毎回の授業で単語テストが行われる。
松坡子ども英語小さい図書館
「松坡子ども英語小さい図書館」は屋外テラス・プログラム室・Reading Zone・Little Kid Zone・Multimedia Zone・DVD Zoneに分かれています。
英語プログラムは月20,000(週1回)~50,000(週2回)ウォン程度です。
松坡子ども英語小さい図書館の英語プログラム
「松坡子ども英語小さい図書館」のプログラムは夏休みのプログラムが充実しています。
- Reading Club
科学・ノンフィクション分野の本を原書で読み、討論する過程を通して語彙や背景知識を増やしていく講座。Starter小学1年生~2年生、Intermediate小学3年生~4年生、 Advanced小学5年生~6年生の3クラスに分かれている。 - Journal Writing
Reading Clubで読んだ本の知識をもとに表現する能力を高める英作文の講座。Starter小学1年~2年生、Intermediate小学3年生~4年生、 Advanced小学5年生~6年生の3クラスに分かれている。
その他以下のようなCLIL(CLILの詳細は小学校のCLILのメリット・デメリット)のクラスもあります。
- English & Cooking 7歳~小学生全学年対象:英語で料理を体験する。
- English & Science 7歳~小学生全学年対象:英語の絵本で科学を学ぶ。
- English & Math(A) 7歳~小学2年生対象:英語の絵本で数学を学ぶ。
- English & Math(B) 小学3年生~6年生対象:英語の絵本で数学を学ぶ。
釜山広域市立中央図書館別館釜山英語図書館
最初に設立されたのは釜山広域市の2館であり,その後2012年度以降毎年新しく名称に「英語」が含まれる公共図書館が設立されています。
上記の動画はそのうちの1つの英語図書館です。
韓国では最も大きい「釜山広域市立中央図書館別館釜山英語図書館」(以降は釜山英語図書館)を訪問して来ましたので、ここでは簡単にご紹介します。
釜山英語図書館は,2009年の7月1日に開館し、2013年5月30日は釜山英語電子図書館を開館しました。
英語村であるBusan Global Villageと同じ敷地内にあります。
釜山英語図書館の英語プログラム
会員登録をすることにより,本を借りたり,プログラムに参加したりすることができます。
会員登録は無料で、すべてのプログラムへの参加も無料です。
ただし、会員になれるのは釜山市に在住の市民のみということです。
以下は開講されているプログラムの一部です。
- Read & Sing with FamilyⅠ保護者・児童(6,7才)対象
英語の絵本を読んで創意的創作活動を行う。 - Media Magic 小学3・4年生対象
多様なメディア(映画,アニメーション,ビデオクリップ,音楽など)を活用して英語表現を習い,それに関連した活動を行う。 - Step-up Reading Ⅱ(深化) 小学5・6年生対象
400L-500L水準の本を一緒に読んで,多様な読書活動を行い,自ら本を読めるようになることを目指すプログラム。 - ENIE(週末)
英語母語話者の教師と英字新聞を読んで1:1の個別添削指導を受けて短いエッセイを書くプログラム。
英語読書診断テスト
その他、SRI (Scholastic Reading Inventory)とSRC (Scholastic Reading Counts)による英語読書診断テストを取り入れています。
SRIとはLexileを測定して、その能力に合った図書を推薦するコンピュータプログラムです。
SRCとは本を読んでその本に関する問題を解く事後クイズプログラム(約10問題)で、自身が読んだ本の理解度を知ることができます。
毎日実施しており、試験を受けたい場合は釜山英語図書館のホームページから申請します。
この英語読書診断テストを利用したプログラムにReading Starというのがあります。
SRIを受験し、自身のレベルに合った図書を読んだ後,SRCを受験し自己の読書能力向上度を測り,さらに、読書レポートを英語で書いて英語の母語話者に添削してもらう自己主導型英語読書能力増進プログラムです。
- 時期:毎年4月から10月まで(7ヶ月間)
- 参加資格:釜山市内の小・中・高校生120人程度
なお、参加の機会を広げるため昨年度の参加者は申請できないということで、かなり人気のプログラムです。
日本もこういった「子ども英語図書館」が必要だなとつくづく思います。
なお、本記事はから引用しました。
なお、以上の記事は以下を参考にしました。
- 韓国の英語教育における格差とその対策
- 韓国での英語の教育格差対策
- 「韓国の英語村の観光戦略」大阪観光大学観光学研究所報『観光&ツーリズム』第 18号
韓国での英語の教育格差対策は Kindle Unlimited で無料で読めます。
世界の英語図書館に関する情報
最後に世界の英語図書館に関する情報のリンクをご紹介します。
韓国の英語図書館に関する英語の論文
ドイツの英語図書館
おわりに
ここでは政府や自治体主導で行ってきた英語教育に関する教育格差対策として韓国の英語村・EBSe・子ども英語図書館をご紹介しました。
日本においても近年不景気が続き,子どもの教育に十分に投資できない家庭が増え,教育格差ということが問題になりつつありますので、韓国の先例から何か学んでいただけたらと思います。
児童英語の資格
子どもに英語を教える先生におすすめの本
クラスルームイングリッシュ
- 授業の最初と最後に使うクラスルームイングリッシュ
- 授業中の指示・注意・ほめる・拍手などクラスルームイングリッシュ
- ウォームアップのクラスルームイングリッシュをクイックレスポンス
- TPR(全身反応教授法)とは!メリット・デメリットを解説
- 小学校のCLIL(クリル・内容言語統合型学習)メリット・デメリット
クイズ・ゲーム
ALTとのコミュニケーション