【デジタル先進国】電子政府・電子国家エストニア

電子国家エストニア ICT技術
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エストニアは電子政府・電子国家といわれていますが、エストニアがデジタル先進国になったのは偶然ではありません。

この小さなバルト海沿岸国は、1990年代初頭のソビエト連邦からの独立以来、情報技術(IT)とデジタルイノベーションを国家発展の柱として位置づけてきました。

エストニアのデジタル化は、全ての学校にインターネットを導入する「タイガーリープ」プロジェクトから始まりました。

その後、エストニアはデジタルID、e-政府サービス、そして最近ではe-レジデンシーといった画期的な取り組みを次々と打ち出し、デジタル社会のモデルケースとなっています。

エストニアのデジタル化戦略は、単に技術の導入に留まらず、国民の生活を向上させ、政府の透明性を高め、経済を活性化することを目的としています。

たとえ人口わずか130万人の国でも、デジタル技術を駆使することで世界に大きな影響を与えることができるのです。

この記事ではこのようなエストニアのデジタル化戦略について簡単に解説します。

エストニアのIT政策の歴史

エストニアが電子国家としての地位を確立する過程は、その独自のIT政策の歩みに深く根ざしています。

ソ連からの独立後、エストニアはITとバイオテクノロジーに重点を置くことで、電子国家への転換を開始しました。

この戦略的な選択は、国民の広範な支持を受け、エストニアの成功の要因となりました。

独立当初からインフラや公共施設の整備が必要でしたが、政府はインターネットの利用環境の整備に力を注ぎ、学校ではパソコンの整備を優先しました。

1996年から2000年にかけての「タイガーリープ」プロジェクトでは、全ての学校でインターネットが利用できる環境を整備し、教師に対してインターネット教育を実施しました。

1998年には、「エストニア情報ポリシーの原則」が採択され、ICTの利用方針が確立されました。

2001年には、分散型システムを構築するためのデータ交換レイヤー(X-Road)が開始されました。

2002年から2004年にかけてのThe Look@Worldプロジェクトでは、約10万人の国民に対して無料でインターネットの基礎知識の教育が実施されました。

また、2002年にはeIDカードの配布が開始され、2003年にはWi-Fiの無料化運動が始まりました。

2005年には、世界に先駆けてインターネット投票が実施されました。

これらの政策とプロジェクトは、エストニアがIT国家としての地位を築くための基盤を形成しました。

教育の普及、インフラの整備、データ保護と共有のためのシステムの構築、そして国民と政府の間の双方向のやり取りを実現するための施策が組み合わさって、エストニアを世界で最先端の電子国家へと導いたのです。

これらの取り組みは、国のIT戦略がただの技術の採用に留まらず、社会のあらゆる側面を電子化することによって国全体を変革しようとする包括的なビジョンに基づいていることを示しています。

X-Roadとは?

エストニアが電子国家として成功した背後には、X-Roadという革新的なデータ交換基盤の存在があります。

X-RoadはCybernetica社によって開発され、2001年にエストニア政府によって導入されました。

これは公共セクターや民間セクターの異なる情報システム間でのデータ交換やサービス提供を可能にする規格化された安全な相互接続環境を提供します。

X-Roadの採用により、700以上の団体や企業、500以上の公共機関が繋がり、5億6000万件以上のデータ照会が行われています。

X-Roadの核心は、一つの大きなデータベースを持つ代わりに、各々のデータベースを互いに繋ぐことで、膨大な情報へのアクセスを容易にすることにあります。

このアプローチは、一つの大規模なデータベースに依存するリスクやコストを軽減し、より柔軟で安全なデータ管理システムを実現しています。

X-Roadの開発と維持が低コストで達成された要因は複数あります。

まず、エストニアが人口約130万人の小国であるため、システムの規模が小さく、変更や更新が容易であること。

次に、民間組織の力を効率的に活用し、ソースコードをオープンソース化することで国境を越えた企業や専門家の協力を得ています。

最後に、X-Roadが「道」として機能し、既存のシステム間を繋ぐことで、新たなシステムの構築にかかるコストを大幅に削減しました。

これらの要因により、エストニアは全体のIT予算のわずか1.3%の低コストで、電子国家の基盤となるX-Roadを開発し、維持することができました。

X-Roadの成功は、エストニアが世界の電子政府のモデルと見なされる理由の一つであり、この国がデジタル社会の構築において取り組んできた革新的なアプローチを象徴しています。

エストニアの電子サービス

エストニアの電子サービスの発展は、国のICT政策と国民のインターネット接続向上の取り組みにより加速されました。

以下では、エストニアで提供されている主要な電子サービスについて紹介します。

電子ID

電子IDはエストニアの電子サービスの基盤となっており、個人の身元は固有のIDコードで管理されています。

このIDカードはエストニア国民にとって唯一の身分証明書であり、2018年12月時点で99%以上の居住者が保有しています。

モバイルIDは、IDカードの機能をモバイルに拡張したもので、携帯電話を使用しての電子本人確認や電子署名が可能です。

特別なカードリーダーを必要とせず、利便性が高いため、電子サービスの利用をより一層促進しています。

e-シール

e-シールは、企業や政府機関が大量の文書を電子的に認証するために使用される電子印鑑です。

これにより文書の真正性が保証され、手作業での文書管理に比べて、業務の迅速化とコスト削減が可能になっています。

e-シールは請求書や納付命令、確認書など、多岐にわたる文書に利用されています。

e-バンキング

エストニアでは、政府認定の電子身分証を使用してオンラインでの銀行取引が可能で、これにより時間と費用が節約が実現しています。

エストニア国民の99.8%が銀行取引をオンラインで行っており、これは国民が銀行に行く必要がなく、どこからでもアクセスできることを意味します。

e-タックス

2000年に導入されたe-タックスシステムは、個人と企業経営者が納税申告を迅速に行えるようにしました。

このe-タックスシステムにより、納税申告の95%がオンラインで行われるようになりました。

e-スクール

e-スクールサービスにより、生徒と保護者は学習の進捗や成績をオンラインで確認でき、教師とのコミュニケーションも簡単になりました。

これにより、学校運営がスムーズになり、保護者が子供の学習により積極的に関わることが可能になりました。

e-ポリス

e-ポリスシステムの導入により、警察の業務効率が大幅に向上し、交通事故の死者数が減少しました。

このシステムは、各警察車両がデジタル地図にアクセスし、即座に情報を入手できるようにしています。

e-ジオポータル

エストニア国土局によるジオポータルは、地理的情報を提供し、不動産取引の手続きを大幅に簡素化しました。

これにより、不動産情報の照会が容易になり、管理コストの削減とペーパーレス化が実現しました。

e-チケット

e-チケットシステムは、公共交通機関の利用をより便利にしました。

このシステムは、特定の住民に対して割引運賃を適用し、乗車カードの代わりにeIDカードを使用しています。

 i-投票

エストニアでは、i-投票システムにより、有権者が世界中のどこからでもオンラインで投票できるようになりました。

これは投票率の向上に寄与し、民主主義を強化する重要な手段となっています。

e-ビジネス

e-ビジネスプラットフォームにより、企業がオンラインで簡単に設立できるようになりました。

これは管理コストの削減と、外国人投資家のエストニアへの関心を高める効果をもたらしています。

e-処方箋

e-処方箋システムは、患者、医師、そして薬局の間の連携をデジタル化することにより、医療サービスの提供方法を大きく変革しています。

このシステムによって、医師は診察後に直接電子的に処方箋を発行し、これが即座に薬局のデータベースに登録されます。

患者はどの参加薬局でも、eIDカードやモバイルIDを提示することで、処方された薬を受け取ることができます。

これにより、紙の処方箋を紛失するリスクがなくなり、処方箋の偽造や誤発行の可能性も低減します。

e-処方箋は、医師が患者ごとに処方箋を手書きする時間を省き、より多くの患者に対応することが可能になります。

また、医師は患者の薬剤履歴を瞬時に確認できるため、薬剤の重複処方や相互作用のリスクを軽減できます。

さらに、処方箋のデジタル化により、薬剤の在庫管理や需要の予測が容易になり、薬局の運営効率も向上します。

患者にとっても、e-処方箋システムは大きな利便性をもたらします。

特に、慢性疾患を持つ患者や定期的に薬を服用する必要がある高齢者にとって、繰り返し医師の診察を受けることなく、処方箋を更新できる点は大きなメリットです。

さらに、e-処方箋により、患者はどの薬局でも処方箋に基づく薬を受け取ることができるため、自宅や職場の近くで容易に薬を受け取ることができます。

エストニア デジタル アジェンダ2030

最近採択された「エストニア デジタル アジェンダ2030」は、エストニアが次の10年間でデジタル技術を利用して達成しようとしている目標とビジョンを明確に示しています。

このアジェンダは、デジタルガバメント、接続性、サイバーセキュリティ、および他の開発計画との連携を強調しており、エストニアをデジタル技術の活用においてさらに先進的な国へと押し上げることを目指しています。

EUでの連携

このビジョンを実現するために、エストニアはEUとの連携を強化し、技術やシステムの国際展開を図ることで、そのデジタル力をさらに高める計画です。

特に、「北米デジタルインフラストラクチャ研究所」の設立やX-Roadの国際展開など、エストニアのデジタルインフラストラクチャの共同開発と普及に力を入れています。

エストニアは、「北米デジタルインフラストラクチャ研究所」の設立を予定しており、これはX-RoadやeIDカードなどの基本的なインフラの共同開発を目的としています。

また、X-Roadの国際展開も進めており、エストニアとフィンランド間で税務情報のシームレスな交換を実現しています。

これにより、両国間の電子契約や電子商取引が促進され、経済成長に寄与することが期待されています。

デジタルデバイドの克服

エストニアでは、全国民がインターネットを利用できるわけではなく、約30万人が利用できない状況です。

政府はこのデジタルデバイドを改善するため、インターネット非利用者の割合を現在の18%から5%に減らすことを目指しています。

これは、特に高齢者や失業者など、社会的サービスを十分に享受できない人々に対するサポートを強化することを意味しています。

スタートアップ国家エストニア

エストニアは「起業の国」として知られ、Skype社などの成功事例があります。

エストニアは、人口一人当たりのスタートアップ企業数が非常に多く、世界で最もスタートアップにとって魅力的な環境の一つとなっています。

政府はスタートアップ企業をサポートするために、「エンタープライズ・エストニア」などの機関を通じて、様々な支援プログラムを実行しています。

e-レジデンシー

e-レジデンシーは、エストニアに居住していない人々にもエストニアのデジタルサービスを利用させる独創的なプログラムです。

このプログラムは、エストニアの電子政府の技術を世界中に広めるための試みであり、多くの「ユーザ」にID番号を発行し、エストニアのインフラを利用してサービスを提供することを目的としています。

e-レジデンシーは、電子認証と電子署名を可能にし、国境に関係なく仕事をするデジタルノマドにとって魅力的な選択肢となっています。

e-レジデンシーは、初年度だけで119カ国から7000人以上のe-レジデントが誕生し、500社以上の企業がこの制度を通じてエストニアで設立されました。

おわりに

エストニアは、デジタル化を国家戦略の核として位置づけ、政府サービスのデジタル化、接続性の向上、サイバーセキュリティの強化、そしてデジタルデバイドの解消に成功しています。

これらの取り組みは、エストニアをデジタルトランスフォーメーションの先駆けとして世界に知らしめるとともに、他国にとってのモデルとなっています。

さらに、エストニアのデジタルアジェンダ2030は、今後10年間でデジタル社会をさらに発展させるための明確なビジョンを提供しており、デジタルイノベーションを通じて国の将来を形作っています。

エストニアの取り組みは、デジタル技術がいかにして社会全体の進化に寄与できるかの見本であり、世界中の国々が注目すべきモデルを提供しています。

以上の記事は以下の本と資料をもとに執筆しました。

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