大分県の湯平温泉の山城屋は、創業50年の小さな旅館です。
ところが、世界最大旅行サイトである「トリップ・アドバイザー」宿泊施設満足度ランキング全国3位に,「外国人に人気の日本の旅館2016」で10位にランクインしています。
ここでは、なぜこのような家族経営型小規模旅館がこれほど訪日外国人観光客に人気がでるようになったのかを書籍「山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由」をもとにその理由を探っていきます。
アフターコロナのインバウンド戦略を考えるうえで参考にしてください。
また、山城屋を題材にしたレポート・卒論の書き方を観光・インバウンドをテーマにした大学のレポート・卒論の書き方で解説しています。
自己紹介
大学の教員で、インバウンドや英語教育を専門に研究を行っており、英会話関係の書籍や英語の論文を多数発表しています。海外生活通算6年以上。また、観光庁の「観光人材のインバウンド対応能力強化の研修会」の認定1級講師で、英語の通訳ガイドの資格を持っています。
湯平温泉について
湯平温泉は大分県由布市由布院町にある温泉街です。
由布院と聞くと有名な由布院温泉を想像すると思いますが、湯平温泉は由布院温泉から10キロ以上離れたところに位置する温泉街です。
湯平温泉は、小さな温泉街ですが、大正から昭和にかけて療養温泉地の「西の横綱」と呼ばれ、別府に次ぐ有名な温泉地でした。
しかし、昭和50年代以降、近隣の由布院温泉の台頭と逆行するように、湯平温泉は客足が減り、全盛期はこの40年の間に衰退してしまいました。
現在は以前は60軒近くあった旅館が、2017年には21軒と3分の1まで減少しています。
山城屋とは
山城屋は、そのような湯平温泉にある創業50年の旅館です。
客室7室しかない小規模な旅館です。
しかしながら、山城屋は訪日外国人観光客が連日のように利用するため、客室稼働率がほぼ毎日100%状態が続いており(コロナ禍の前)、世界最大旅行サイトである「トリップ・アドバイザー」宿泊施設満足度ランキング全国3位に,「外国人に人気の日本の旅館2016」で10位にランクインしています。
山城屋は「山奥の小さな旅館が連日外国人客で満室になる理由」を出版されています。
山城屋の海外へのPR活動
以下で実際に山城屋が行った海外へのPR活動や対応をご紹介します。
スポーツをつうじた国際交流
海外へのPR活動のために地元のスポーツイベントを企画し、そのイベントに多くの訪日外国人に参加してもらうことで海外へのPR活動を行いました。
湯平温泉には、「ツール・ド・湯平」という湯平温泉と近隣の久住高原を往復するというサイクリングイベントがあり、そのイベントを韓国の自転車レースの選手団と国際交流という形で利用することで湯平温泉を海外へアピールしています。
加えて、参加者には大会後に温泉に無料で入浴できる特典などを付与するなどして湯平温泉を実際に体感してもらうことで湯平温泉をよく知ってもらうという試みも行っています。
現在では、この国際交流は「国際スポーツ交流協定」が結ばれ毎年お互いの訪問が定例化しており、
韓国以外にも国際交流を通じた海外へのPR活動が行われています。
山城屋は「ツール・ド・湯平」に台湾の自転車レース大会「太魯閣国際ヒルクライム」のレセプションとして参加し、そこで、湯平温泉のハッピや湯平温泉を紹介し、成功しました。
山城屋は、現在でも自転車大会を通じた国際交流を続け、世界に向けてPR活動を継続しています。
海外雑誌への売り込み
山城屋は韓国や香港などの海外雑誌で湯平温泉と山城屋を掲載して貰い、海外へアピールしました。
絵葉書を利用したPR活動
山城屋に宿泊した外国人観光客がフロントにある絵葉書を自国の家族や友人に宛てて書き送るといったシンプルな方法です。
絵葉書を利用して日本文化を知ってもらいながら山城屋の良さを海外にPRできます。
これなんか、すぐにどこの旅館でも取り入れることができるのではないでしょうか。
FACEBOOKの利用
山城屋はFACEBOOKを利用して広報活動を行っています。
FACEBOOKは日本語と英語で投稿しており、そのことにより見知らぬ国の見知らぬお友達同士で、日本の旅館「山城屋」の話題がシェアされるということもありました。
また、フェイスブックにはお客さまと一対一でメッセージのやり取りのできる「メッセージ機能」があるので、予約の問い合わせや、宿泊当日の交通アクセスなどリアルタイムなメッセージを受け取ることできます。
このような連絡が来たら、下記で紹介する「列車の乗り方・降り方」の動画を添付してあげるということです。
山城屋のサービス:不安を安心感に変える
山城屋の主人は安心感こそが最高のおもてなしであると以下のように述べています。
「あらためて、認識したのですが、このように訪日外国人客と同じ立場になってみると、個人旅行客はまさに不安のかたまりです。旅行者から不安のかたまりを1つひとつ解いて安心感に変えることができたら、より旅行が楽しい思い出となり、移動する時間さえも旅の楽しみの1つになるのではないでしょうか。安心感こそが最高のおもてなし。山城屋にとってのおもてなしの答えはまさに安心感です。私は、この安心感をお客様に提供することを第一に考え、これまで様々な取り組みを行ってきました」『山奥の小さな旅館が連日外国人観光客で満室になる理由』p73
山城屋は不安を安心感に変えるサービスとして以下のようなものを行っています。
ホームページの多言語化
第1にホームページの多言語化です。山城屋では、ホームページを英語、中国語、韓国語、日本語と4ヶ国語対応となっています。
これらのホームページの翻訳は地元の留学生の協力を得ながら行ったそうです。
大分県は別府市に立命館アジア太平洋大学(APU)があり、大分県は人口10万人あたり留学生比率が都道府県別で全国1位です。
山城屋はアクティブネットという留学生と企業・団体をマッチングするサイトで翻訳者を募集し、採用した留学生には翻訳だけでなく、実際に山城屋を体験してもらいその経験からキャッツコピーや山城屋に必要なアイディアを出してもらうことなどを行っています。
言語別のご利用ガイドビデオの提供
山城屋のすごいところは、言語別(主に、韓国語・中国語・英語)のご利用ガイドビデオを作っているところです。
- 日本旅館でのおくつろぎスタイル
- 浴衣の着方
- 湯平駅での降車方法(博多→由布院→湯平の場合)
- 湯平駅からの乗車方法(湯平→由布院の場合)
- 高速バスをご利用の場合
こちらは英語で湯平駅での降車方法(博多→由布院→湯平の場合)の動画です。
こちらは韓国語の動画ですが、トイレットペーパーの切り方まで説明しています。
完璧なわかりやすい韓国語で説明してあります。
山城屋までのルートマップ
山城屋は「おもてなしのはじまりは、空港から」ということで、空港から山城屋までのルートマップを作成しています。
このルートマップも、立命館アジア太平洋大学の学生と留学生の協力のもと福岡空港、北九州空港、博多港から山城屋までのルートを写真を使い、ビジュアル化し、さらに英語で翻訳して作成しています。
Wi-Fi館内全域で利用可能
今の時代、Wi-Fiがないのは、致命傷になると思います。
地方の旅館に行って一番困るのは Wi-Fi がないことです。
私も国内でも、海外でも必ずWi-Fiが利用可能かどうかは調べます。
外国語訳の漫画・雑誌・パンフレットを設置
山城屋では、多言語での観光情報の提供を行うため、観光協会やSNSなどで無料で入手したパンフレットや多言語に対応した雑誌を置いています。
これは最低限行うべきことでしょう。
ところで、山城屋ではそれだけでなく、入浴所近くの休憩所に外国語訳の日本の漫画などを設置しています。
日本語の漫画を置いているところは多いかもしれませんが、外国語訳を置いている旅館は少ないのではないでしょうか。
日本の漫画・アニメは人気がありますので、外国人の方が喜んで読んでくれると思います。
外国語訳の漫画はアマゾンで簡単に入手できますので、ぜひ、取り入れていきましょう。
「鬼滅の刃」の全巻です。
デスノートの英語版の漫画もあります。
メール用の英文返答文例集の作成
いろいろな問い合わせてに英語で迅速に返答できるように「メール用の英文返答集」を作成しています。
予約不可の場合の返答
Thank you very much for choosing to stay at our Japanese Ryokan Yamashiroya.
We are glad to have your reservation request again. I’m afraid we are fully booked.
他の候補日をもらう場合
We can offer another date / another time on the day if you are fine with it.
I would appreciate it if you reply on this email after you have considered your stay.
このような「メール用の英文返答集」を作成するのに、最初にGoogleなどの翻訳サイトを利用して、その後に、それらを英語母語話者にチェックしてもらえれば完璧です。
そのような英文チェックをしてもらうのに、ラインで質問し放題の「生イングリッシュ」などを利用したり、オンライン英会話の無料体験を利用しましょう。
外国人観光客の国に応じたサービスの提供
山城屋は外国人観光客の国に応じたサービスの提供を行っています。
どういうことかいいますと、たとえば、韓国人の場合は、部屋の設定温度を夏は極端に涼しく、冬は極端に暖かく設定します。
また、氷水を好む傾向があるので、氷水を出しているということです。
他方で中国本土、台湾、香港からの方は極端な温度差を嫌う傾向があるので、部屋の温度設定もそのようにします。
また、飲み物もお茶や白湯などを好む傾向があるので、そのようなものを出しているということです。
このよう国別のサービスを行っているところは少ないと思いますが、一度知ってしまえば、簡単に実践できると思いますので、ぜひ取り入れてみてください。
参考文献
二宮謙児(2017年)『山奥の小さな旅館が連日外国人観光客で満室になる理由』 あさ出版
やまとごころ.jp 「【旅館:湯平温泉・山城屋】大分の小さな旅館が大手口コミサイトのランキングで「3年連続トップ10入り」を果たした理由 https://www.yamatogokoro.jp/inbound_case/27229/
なお、その他のインバウンドの成功例として兵庫県の城崎温泉がインバウンドに成功した理由も参考にしてくだださい。
まとめ
ここではこちらの本を参考に、なぜ山城屋がインバウンドで成功したかを解説しました。
山城屋の成功した最も大きな要因は、地元の留学生をうまく活用して、徹底して不安を安心感に変えるサービスを行ってきたことにあると思います。
留学生を見つけるのが難しい場合は、ポケトークを利用しましょう。
ポケトークは、互いに相手の言葉を話せなくても、まるで通訳がいるように対話できる音声翻訳機です。
英語・中国語・韓国語といったメジャー言語はもちろんのこと、ベトナム語・ネパール語などといったマイナー言語にも対応しています。
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